1.1 「心」と「脳」
心とはなんなのでしょう?誰でも分かっているようで、定義は難しいと思います。
「心」は霊魂のようなものでしょうか?胎児の中に宿り、死ぬと肉体から離れて天国に昇って行く、そして次の生命に宿って行く・・・。
心は、魂のようなものなの?
子供の頃に優しかった祖父母が天国から見守ってくれているというイメージは、多くの人の心の中にあると思います。私にもあります。
しかし私は、「心は、脳の中の神経細胞が、連絡しあっているうちにでき上がってくるもの」だと理解しています。
例えば目の前にケーキがあるとします。視覚からその存在を認識するのも「心」の働きですし、食べようと思うのも「心」の働きです。網膜から神経繊維を刺激が脳に伝わります。
ケーキを食べると、舌から神経連絡を経て脳に伝わり、「美味しい」と感じるのも「心」の働きです。新型コロナウイルスに感染してしまい、神経の伝達がうまくいかずに「味が分かりにくい」と感じるのも「心」の働きですし、それで落ち込むのも「心」の働きです。
心は脳(神経細胞)の働きでできてくると考えざるをえませんね・・・。
心の動きに、神経の連絡が関わっていると考えられます。また、交通事故などで脳に外傷があれば、その外傷の部位と程度によって心のあり方が変わってくる可能性があります。
また、私の脳細胞で、記憶を司る部分が死んで脱落していくと、私の心はアルツハイマー型認知症の心へとなって行くでしょう。アルコールを摂取して、アルコールが脳の神経細胞に働きかけると、「お酒に酔った心」へと変化していきます。
アルコールが肝臓で分解されて、血中アルコール濃度が低下すると、神経細胞は、通常の働きに戻って「酔いがさめた心」に戻ります。
「心」についての突っ込んだ議論は、8章で触れたいと思いますが、ここでは、まず常識的に「心」と一般的に思われているものとして受け止めて下さい。しかしそれが脳の活動に由来すると考えて読み進めて下さい。
1.2 「心」と「体」
ストレスを感じると脈が速くなったり、血圧が高くなったり、胃潰瘍になったりすることはよく知られています。ストレスが元で内科的な病気になったものを「心身症」と呼びます。「心」から「体」への作用です。
また、運動すると気持ちがスッキリしたり、背筋を伸ばすと気持ちがしっかりしたりすることは、よく経験することです。深呼吸すると気持ちが落ち着いたりもします。「体」から「心」に働きかけていることになります。臓器から分泌されるホルモンなども「心」に働きかけています。甲状腺ホルモンが少なくなるとうつ状態になったり、ステロイドホルモンが多くなると精神病状態になったりします。
定説ではありませんが、臓器移植を受けると性格に変化が生じることがあると言われたりしています。「心」は、脳(神経細胞)の産物だけではないのかもしれません。しかし、そういうものが神経細胞に働きかけて「心」の状態に影響しているとすれば、最終的には「心」は神経細胞の連絡の産物ということになります。これから研究される領域だと思います。
いずれにしても「心」と「体」は、相互に影響を与え合っていることは間違いなさそうです。
「心」から「体」へ・・・・「体」から「心」へ・・・なんだね・・・
1.3 「心」と「心」
一方で、私たちは日頃、「脳」を意識せずに、「心」と「心」で関わっています。社会的な生き物である私たちは、他者から好意的な目でみられたいのです。承認欲求といっても良いかもしれません。「心」は「心」を求めていて、評価されたり、好意を向けて欲しいのです。「心」と「心」の相互作用を利用して治療する方法は、「精神療法」と呼ばれています。「カウンセリング」とも呼ばれています。第4章で詳しく触れます。
1.4 「心」と「心」と「心」
心が集まると社会となります。私たちの心は、社会から影響を受けています。ネット上での炎上など、批判を大勢から受けると、強い罪悪感にかられ、時に自殺にまで追い込まれることがあります。また群集心理のように、大勢の人間が集まっている社会で、ちょっとしたデマが伝言ゲームのように伝わり、とんでもない事態に陥ることがあります。しかしここでは人が集まることで良い方向に作用することを考えてみたいと思います。集団精神療法と呼ばれている治療法があります。グループセラピーとも呼ばれますが、独特の治療効果があり、第3章で詳しく説明します。