薬物療法を含む、身体へ働きかける治療を述べるにあたって、脳の仕組みや、遺伝の仕組みについて簡単に説明します。なるべくきちんと原理的に理解できた方が、治療を考える上で役に立つと考えるからです。
5.1 脳の構造と神経細胞
5.1.1 脳の中の細胞
5.1.1.1 神経細胞(ニューロン)
「脳」の働きによって「心」が生まれると以前に書きました。では、「脳」は、何でできているのでしょうか?主に神経細胞(ニューロン)からできています。

神経細胞と言っても細胞の一種です。

細胞の図を示しましたが、色々な細胞がある中で、神経細胞は、特殊な役割があり、以下のような構造をしています。電気信号を伝える役割があります。電気信号の刺激を受け取り、次に伝えるのです。

樹状突起で刺激を受け取り、軸索を電気刺激が伝わっていきます。刺激の伝達は、一方向性です。神経終末まで刺激が伝わると、神経伝達物質を放出して、次の神経細胞に刺激を伝えます。

この神経細胞が、リレーをして電気信号を伝えてゆくわけです。


5.1.1.2 アストロサイト(星状膠細胞:アストログリア)
脳には、ニューロン以外の細胞もあります。グリア細胞と言って、過去にはニューロンの間を物理的に埋める、「つなぎ」みたいな働きをしていると思われていた細胞群がありました。「膠(こう)細胞」と言っていました。「膠(にかわ)」とは、昔、糊のように接着剤として使っていたものです。グリアの語源、ギリシャ語の「glia」も英語で「glue」となり、現在も「接着剤」の意味で使われています。最近では、色々と重要な機能を果たしていることが分かってきました。

グリア細胞の一種であるアストロサイトは、血液脳関門(後述)の形成や維持、ニューロンのエネルギー代謝を補助します。細胞外の過剰なカリウムイオンを取り込み、神経伝達物質グルタミン酸の回収することでニューロンが働きやすい環境を整えます。最近、注目を浴びていて、新しい発見が期待されている細胞です。

5.1.1.3 オリゴデンドロサイト(乏突起膠細胞)
オリゴデンドロサイトは、中枢神経系で髄鞘を作るグリア細胞です。細胞から伸びた突起の膜がニューロンの軸索へ何層にも巻き付き、電気的に絶縁します。この多層の膜構造を、髄鞘(ミエリン)と呼びます。髄鞘は脂質とタンパク質に富んでいます。

髄鞘は軸索全体を切れ目なく覆うのではなく、一定の間隔を空けて並んでいます。髄鞘と髄鞘の間にある、軸索膜が露出した短い部分を「ランビエ絞輪」と呼びます。ランビエ絞輪には電位依存性Na⁺チャネルが高密度に集まっており、活動電位は主にこの部分で再生されます。
髄鞘は軸索からの電流の漏れを減らすため、電気信号は一つのランビエ絞輪から次の絞輪へ飛び移るように伝わります。これを「跳躍伝導」といい、無髄神経線維における連続伝導よりも速く、エネルギー効率にも優れています。髄鞘で覆われた軸索を「有髄神経線維」と呼びます。

一つのオリゴデンドロサイトは複数の突起を伸ばし、複数の軸索のそれぞれ一部分を髄鞘化できます。多発性硬化症は、中枢神経系の髄鞘などが免疫機序によって障害される炎症性脱髄疾患です。
5.1.1.4 ミクログリア
ミクログリアは、脳や脊髄に常在する免疫細胞です。ニューロン、アストロサイト、オリゴデンドロサイトなどが神経外胚葉に由来するのに対し、ミクログリアは中胚葉系の細胞です。胎生初期に卵黄嚢で生じる原始的な骨髄系前駆細胞に由来し、血液中を循環する単球とは発生学的に区別されます(過去には、血液の中の白血球の一種である単球由来という説がありました。現在は、胎生期に脳に移住した中胚葉系の細胞が脳に移住して、そこで増殖したり、死んだりしているという説が有力です)。脳へ移住した後は、主に脳内で自己複製することによって維持されます。
ミクログリアは、突起を絶えず動かして周囲の状態を監視しています。損傷した細胞や細胞の破片などを貪食して除去するほか、脳の発達、シナプスの形成や除去、組織環境の維持にも関与します。感染や損傷が起こると状態を変化させ、サイトカインなどを放出します。その働きは炎症を促進する場合もあれば、組織の保護や修復に関与する場合もあります。
近年、うつ病の一部では、炎症や免疫系の変化が病態に関与する可能性が研究されています。ミクログリアの状態変化が関係する可能性もありますが、すべてのうつ病を炎症だけで説明できるわけではなく、ミクログリアが直接の原因であると確定しているわけでもありません。

5.1.2 灰白質、核
この細胞体が集まっている部分が、「灰白質」と呼ばれ、大脳皮質の部分に相当します。餃子で言えば皮の部分です。具にあたる脳の内部にも細胞体が集まっていて、「・・・・核」「・・・体」などど呼ばれる部分があります。「扁桃体」「大脳基底核」「オリーブ核」などです。
5.1.3 白質
脳を切った時に見える白い部分は「白質」と呼ばれ、神経繊維が走っている領域になります。

5.1.4 中枢神経系の大きな分類
下の図を見てください。脳と脊髄を合わせて中枢神経です。脳には、大脳半球と、その中心部の間脳(視床や視床下部など)、その下に脳幹、その後ろに小脳、脳幹の下に脊髄がつながっています。

5.1.4.1 担当領域
そして脳の場所によって、担当する機能が分かれていきます。視覚領域、聴覚領域、運動領域などです。脳卒中(血管が詰まったり、破れたり)して、特定の部分が障害を受けると、失語が出たり、半身麻痺が出たりするのは、このためです。以下に代表的な部分の領域を示します。

5.1.5 大脳
大脳から見ていきましょう。
5.1.5.1 大脳皮質の分類
大脳を餃子にたとえたら、皮に相当する表面の部分が大脳皮質です。以下のように大まかに分類します。

5.1.5.1.1 前頭葉
大脳皮質の前方を「前頭葉」と言います。頭のてっぺんの部分の頭頂葉との境に「中心溝」という溝があります。

「中心溝」のすぐ前方は、運動を指示する領域になります。「前にある茶碗を持て」などです。ここがやられてしまうと運動麻痺が起こります。そして、その運動領域の前方の部分を「前頭前野」と呼んでいます。人間的な要素がここに起因しており、現在ここの領域に関心が集まっています。

そして前頭前野の中にもいくつか領域があり、下図のような領域を「背外側前頭前野(DLPFC)」と呼ばれています。意識の集中(主に持続的に集中すること)や、物事の段取りを考えたりする「実行機能(遂行機能とも呼ばれる)」を司るとされています。また、言われたことを短期間憶えておくワーキングメモリーを担当する部位とも言われています。

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下図のような部分を腹内側前頭前野(VMPFC)」と呼んでおり、感情の統合と意思決定に関与していると言われています。
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下図のように、前頭葉を下から見上げた部分にある「眼窩前頭前野(OFC)」と呼ばれる部位があり、衝動性のコントロールをしているとされています。考え方の柔軟性や、強迫性のコントロールもしているとされています。
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帯状回という部分が脳梁の上にありますが、その前方部分も前頭前野に入れられており、注意(選択的注意)を司っていると言われます。また葛藤を天秤にかけ、意思決定をするとも言われています。

5.1.5.1.2 頭頂葉
脳のてっぺんの後半部分になります。体性感覚と言って、熱いとか触られたとか、全身の体の感覚を感じる領域が、前半部分にあります。ここが損傷すると感覚がなくなります。そして体の感覚を元に、周囲の状況などをまとめて把握する機能があります。

5.1.5.1.3 後頭葉
後ろの部分であり、主に視覚を感じています。

5.1.5.1.4 側頭葉
横の部分であり、聴覚を感じていたり、言語を理解したり、物や顔を認識したりしています。

5.1.5.1.5 島
島は、側頭葉をどけてみないと見えません。以下の図を見てください。側頭葉の内側の部分です。断面図も参照してください。現在注目されている領域で、内臓の感覚などを感じているとされています。体の内部からくる情報を感じているようです。そのために感情を感じているとも言われています。そのために「自己意識」を感じている部分ともされています。


5.1.5.2 大脳辺縁系

脳の中心部の方の構造にいきます。上の図を見てください。餃子の具の部分、玉ねぎで言えば芯の方に当たります。大脳皮質に比べて進化的に古い脳と言われ、動物の脳に近いものとされています。生存に必要な「情動」「記憶」「学習」「食欲や性欲、自律神経系」などに関与するとされています。食べ物にありつける場所を記憶したり、襲ってくるものを記憶して避けたり、パートナーを見つけたりなどです。主なものを以下で説明します。
5.1.5.2.1 海馬
記憶を作るとされています。特に短期記憶(少し前の記憶)を作り、長期記憶に固定する役割をします。アルツハイマー型認知症では、ここの細胞が減少して、萎縮します。そのためにご飯を食べたことを忘れてしまい、すぐにまた食べようとしたりするのです。
5.1.5.2.2 扁桃体
入ってきた情報に対して「危険か、そうでないか」「快か不快か?(好きか嫌いか)」を瞬時に判断する部分です。山の中で、カサッと音がした時、逃げるか闘うかなど瞬時に判断し、体の各部位にそれに対応した指示を出す機能を果たすと言われています。生存にとって非常に大切な働きをします。不安障害などでは、ここが過敏になっており、些細な刺激で不安、恐怖が感じられてしまって苦しむことになります。
5.1.5.2.3 帯状回
「本能・感情(大脳辺縁系)」と「理性、思考(大脳皮質)」の間のバランス、調整をとっている部位と考えられています。「食べたいけど、太りたくない」などの葛藤を調整したり、注意の切り替えに携わっていると考えられています。
5.1.5.2.4 視床下部
脳の底に位置する小さな部位ですが、生命維持の中枢を担っています。自律神経系に働きかけ、体の状態を一定に保つ「ホメオスタシス」の役割を担っています。摂食中枢、満腹中枢、血圧、心拍、飲水、体温、睡眠、ホルモンの調節などに関わっています。

5.1.5.2.5 側坐核
部位的には、次に述べる大脳基底核の一部にありますが、機能的には辺縁系と密接なつながりがあるために辺縁系として考えられることが多いです。ここがドーパミンで活性化するときには、「快」を感じ、その行動の頻度を増やそうとします(厳密に言うと、ドーパミン刺激は、行動を増やそうとする方向の刺激になり、「快」を感じるのは、側坐核のオピオイド受容体が刺激を受ける時が中心との研究があるようです。「快」と「モチベーション」が微妙に絡み合っているようです)。美味しいものを食べたら、活性化され、「また食べたい」となるわけです。カロリーが高い甘いものなど食べると「快」を感じ、さらに食べたくなることは、昔の時代は、生存に適応的だったと考えられます。食べ物が十分にある現代では、必ずしも適応的ではなく、肥満や糖尿病になりやすくなり、むしろ生存を脅かしています。現在、よく問題になる「依存症」にも絡んでくる部位です。
5.1.5.3 大脳基底核
これも脳の中心部、深くにある部位です。餃子の具、玉ねぎの芯です。大きな領域でもあります。下図のように、そこだけ取り出して見ると、何かの貝の貝柱やヒモのようにも見えます。 青い部分です。

尾状核、被殻、淡蒼球という3つの部位で構成されます。前の二つをまとめて線条体(肉眼で線が見えるからだそうです)、後の二つをまとめてレンズ核(レンズみたいな形だからだそうです)とも呼びます。ややこしいですね。そして線条体の前方(腹側)に上記の側坐核があります。

大脳基底核の機能は、まず「運動の調整」です。直接体を動かすのは大脳皮質の運動野ですが、基底核で、スムーズに開始させたり、止めたり、滑らかな運動になるように調整しています。そして「行動の習慣化、自動化」に関わるとされます。タイピングが無意識にできるようになったり、考えずに自転車に乗れたりすることを司ります。「感情や動機づけへの関与」も注目されています。先述の側坐核の刺激は、やる気、意欲、快不快などに関係し、その行動を繰り返す方向に我々を動機づけます。それが過剰になることが依存症のメカニズムと言われています。そして前記の「自動化」により、それほど欲しいわけでも無いのに、無意識にタバコを吸ってしまったりと、習慣化した嗜癖の機構に関与するとされています。
5.1.6 間脳(視床、視床下部、下垂体、松果体)

5.1.6.1 視床
視床と視床下部は名前も似ていて隣に位置しているけど機能は全く異なるので注意が必要です。視床は、全身の感覚神経からの入力(手の先が痛いとか、足の先が冷たいとか)が脊髄を通って登ってきます。それが視床に入力し、ここでリレーして大脳皮質の感覚野に入力されます。大脳皮質で「痛い」と感じるわけです。嗅覚以外の全ての感覚が視床で中継されます。おそらく中継されながら、フィルターがかかっているのでしょう。



5.1.6.2 視床下部(5.1.6.4 視床下部)
これは、前節で書いたので省略しますね。
5.1.6.3 下垂体
下垂体は、脳の底ぶら下がった位置にあり、視床下部と短い茎でつながっています。鼻の奥の方の上側にあります。だから下垂体腫瘍などの治療では、鼻から機械を入れて、下垂体の一部を切除したりします。機能的にはホルモン活動の司令塔です。視床下部の指示で、ホルモンを作って放出しています。ホルモンを作る臓器に向かって、「ホルモンを作りなさい」と指示するホルモンです。甲状腺ホルモン(代謝をアップさせる)、副腎皮質ホルモン(いわゆるステロイドですね。ストレスや緊急事態に出るホルモンです)、性ホルモン(男性ホルモン、女性ホルモン)を作れと指示するホルモンです。脳の働きが、ホルモンを通じて全身に影響を与えていくことになります。心身相関を司る部分となります。
5.1.6.4 松果体
松果体は、下の図を見てください。背側にあります。中央に一つあって、松ぼっくりのようなのでこの名前がついたそうです。メラトニンというホルモンを産生しています。メラトニンは、光がなくなると産出されて、睡眠を誘発します。海外ではサプリで売られていたりします。昼間起きていて、夜になると眠くなるという、人間のサイクルに関係します。睡眠のところで、また触れると思います。

5.1.7 小脳
小脳は、大脳の下側、背側にあります。運動を調節して滑らかにする機能があります。障害を受けると、歩行がうまくできなくなったり、物をうまく指差しできなくなったりします(距離の調整がうまくできなくなります)。

5.1.8 脳幹
脳幹は、大脳(その中の特に間脳)と脊髄の間の部分です。生命を保つ機能を司る神経核が密集している部位です。中脳、橋(きょう)、延髄から成ります。

5.1.8.1 中脳
下の図を見てください。精神医学的に重要なのは、中脳には黒質という部分と腹側被蓋野という部分があって、ここでドーパミンという物質が作られています。黒質にあるドーパミン神経は、基底核の線条体へ線維を出しています。ここのドーパミンが不足するとパーキンソン病になります。最近、iPS細胞から作った製剤がパーキンソン病の治療薬に承認されましたね。ここの部分です。また腹側被蓋野(vntral tegmental area VTA とよく表記されます)でもドーパミンが作られていて、ここの神経は、基底核の側坐核に線維を出しています。依存症や、統合失調症の話に出てくる領域です。前頭前野にも線維を出しています。

5.1.8.2 橋
橋は、中脳と延髄の間で、膨らんだ部分です。小脳と向き合っています。顔面の神経や、眼球を動かしたりする神経の核があります。

5.1.8.3 延髄
延髄は、脳から脊髄へと移行する部分であり、自律神経の副交感神経を司る迷走神経の核があったり、舌の神経や唾液腺の神経の核などがあります。

5.1.9 脊髄
脊髄は、脊椎(背骨)の中に入っている細長いものです。脊髄から髭のように脊髄神経が出ていて、体の隅々まで神経が走っています。脳からの指令が、脊髄を通過して、体の隅々まで届く、遠心性の経路と、体の隅々で受ける刺激が、脊髄を通過して脳に届く求心清野経路があります。下に求心性の図解です。視床の説明で使った図を再掲します。

逆に脳の命令が、脊髄を通って、脊髄神経に伝わり、筋肉に達して、体を動かしているイラストを下に載せます。

脊髄のイラストを以下に載せます。脳と同じように、細胞体が集まっている灰白質と、神経線維が走っている白質があります。背中側に感覚神経があり、体からの刺激を受けた神経線維から刺激を受け、脳の方に上る線維を出します。お腹がわに運動神経があり、脳から下ってきた神経線維から刺激を受け取り、筋肉へ刺激をリレーして、届けます。

5.1.10 自律神経系
自律神経系の説明をします。自律神経という言葉は、日常でもよく使われています。「自律」とは、主として私たちが意識的に指示しなくても働くという意味です。逆にいえば、心臓の拍動や胃腸の運動などを、手足のように意のままに動かすことはできません。
自律神経系は、主に交感神経系と副交感神経系に分けられます。危険が迫ったときや運動時などには交感神経系の活動が高まり、瞳孔が開き、心拍数や心臓の収縮力が増し、気管支が広がります。例えば、山中で熊に出会ったような状況です。
一方、安静時や食後には、副交感神経系が心拍数を下げ、唾液や消化液の分泌、胃腸の運動などを促進します。ただし、交感神経と副交感神経が完全に交互にオン・オフされるわけではありません。安静時にも両方が活動し、臓器ごとにそのバランスが調節されています。
大事なところですが、ややこしいので、少々面倒な説明になりますが、お付き合いください。心と体が相互に干渉している部分になりますので、非常に重要なところです。まず下の図を見てください。ごちゃごちゃしているのでざっと眺めたら、次の説明を読んでください。

青線はアセチルコリン(ACh)作動性線維、橙線はノルアドレナリン(NA)作動性線維を示します。交感神経と副交感神経の節前線維は、どちらもAChを放出します。交感神経の節後線維は原則としてNA、副交感神経の節後線維はAChを放出します。ただし、汗腺を支配する交感神経の節後線維はAChを使用します。副腎髄質には交感神経節前線維が直接到達します。
上の図では、左側に交感神経系、右側に副交感神経系を示しています。また、青い線はアセチルコリン(ACh)を放出する線維、橙色の線はノルアドレナリン(NA)を放出する線維を表しています。
交感神経系
交感神経の節前ニューロンの細胞体は、胸髄から上部腰髄にかけての側角、おおむねT1〜L2にあります。
そこから出た短い節前線維は、脊柱の両側に縦に並ぶ交感神経幹の神経節や、腹部にある椎前神経節などで、節後ニューロンとシナプスを作ります。そこから比較的長い節後線維が、眼、心臓、気管支、血管、肝臓、消化管、膵臓、腎臓、膀胱、汗腺、生殖器などへ向かいます。
交感神経の節前線維は、アセチルコリンを放出します。一方、節後線維は原則としてノルアドレナリンを放出します。
ただし、汗腺を支配する交感神経の節後線維は例外で、アセチルコリンを放出します。交感神経でありながら、標的器官まで青い線になっていることに注目してください。
副腎髄質へ向かう経路も例外的です。交感神経の節前線維が、通常の節後ニューロンを介さず副腎髄質へ直接到達します。アセチルコリンの刺激を受けた副腎髄質は、主にアドレナリンと、少量のノルアドレナリンを血液中へ放出します。
副交感神経系
副交感神経系は脳幹と仙髄から出るため、「頭仙髄系」と呼ばれます。
脳幹からは、動眼神経(Ⅲ)、顔面神経(Ⅶ)、舌咽神経(Ⅸ)、迷走神経(Ⅹ)に、副交感神経の節前線維が含まれます。
動眼神経は瞳孔や眼のピント調節、顔面神経と舌咽神経は涙腺や唾液腺の分泌に関与します。
最も広い範囲を支配するのが迷走神経です。迷走神経は心臓、気管支、胃、肝胆道系、膵臓、小腸、横行結腸の近位側までの消化管など、胸部と腹部の多くの臓器へ線維を送ります。「迷走」という名称は、広い範囲を巡るように走行することに由来します。
仙髄のS2〜S4には、副交感神経の節前ニューロンがあります。そこから出る骨盤内臓神経は、遠位側の大腸、膀胱、生殖器などへ向かい、排便、排尿、勃起などに関与します。
副交感神経では、節前線維と節後線維の両方がアセチルコリンを放出します。副交感神経節は標的となる臓器の近く、または臓器の壁内にあるため、節前線維が長く、節後線維が短いことも特徴です。
脳と内臓の双方向の関係
脳幹や脊髄にある自律神経系のニューロン群は、間脳にある視床下部をはじめ、扁桃体、島皮質、帯状皮質、脳幹などから調節を受けています。
上の図は、脳や脊髄から臓器へ向かう遠心性の経路を中心に示しています。一方、内臓の状態を脳へ伝える内臓求心性線維も存在します。内臓求心性線維は自律神経の遠心路そのものではありませんが、自律神経と同じ神経の中を並走することがあります。
感情は自律神経を介して心臓、呼吸器、消化管などの働きに影響します。反対に、心拍、呼吸、胃腸などの状態を伝える内受容感覚も、私たちの身体感覚や感情に影響します。この双方向の関係は、心身相関を考えるうえで重要です。
5.2 神経系の発生
神経系の発生をざっくり理解しましょう。精神疾患を考える時に、生まれ持ったものなのか、育った環境によるものなのかを考える上で参考になります。人間の染色体は46本です。精子と卵子は、できる時に減数分裂(懐かしい響きですね)をするので、半分の染色体23本ずつになります。それが受精して、染色体46本の受精卵になります。以後は、どんどん細胞分裂をして数を増やしていきますが、染色体の遺伝情報は、ひたすらコピーを繰り返していくので、基本的に全ての細胞が同じ遺伝情報になります。


そして細胞分裂を繰り返しながら、三層になっていき、外胚葉、中胚葉、内胚葉に分かれていきます(懐かしい言葉です)。神経系は外胚葉からできます。皮膚と神経が外胚葉です。外界との境目だったり、外界の情報をキャッチして、反応しないといけません。

外胚葉を上から見ると神経板と呼ばれる構造になります。

神経板は、真ん中が窪み、溝ができます。神経溝と呼ばれます。




5.3 神経細胞と電気活動
電気活動を説明する前に、まず細胞膜を見てみましょう。細胞膜は、主にリン脂質が二重に並んだ「リン脂質二重層」からできています。リン脂質には、水となじみやすい親水性の頭部と、水を避ける疎水性の尾部があります。親水性の頭部は細胞外液と細胞内液の側を向き、疎水性の尾部は膜の内側で向かい合います。こうして、細胞の内側と外側を隔てる膜ができます。膜には、受容体、イオンチャネル、イオンポンプなどのタンパク質も組み込まれています。
下の図を見てください。リン脂質の一種のスフィンゴミエリンの構造式と、その頭部(親水部)と尾部(疎水部)の図示です。



細胞の内外には、Na⁺、K⁺、Cl⁻など、電気を帯びたイオンがあります。細胞外にはNa⁺が多く、細胞内にはK⁺が多く存在します。Na⁺/K⁺ポンプはATPのエネルギーを使い、Na⁺を3個外へ、K⁺を2個内へ運ぶことで、この濃度差を維持しています。

刺激を受けていないニューロンでは、細胞内は細胞外に対して電気的に陰性で、多くの場合およそ−60~−70 mVです。これを静止膜電位といいます。静止膜電位には、細胞膜がK⁺を比較的通しやすいことや、細胞内外のイオン濃度の違いなどが関係しています。
刺激によって膜電位が一定の値(閾値)に達すると、電位依存性Na⁺チャネルが開き、Na⁺が細胞内へ流入します。その結果、膜電位が急速に上昇し、活動電位が生じます。一つの神経細胞で生じる活動電位は、閾値に達すればほぼ一定の大きさで発生し、達しなければ発生しません。これを「全か無かの法則」といいます。刺激が強くなっても、一つひとつの活動電位が大きくなるのではなく、主に活動電位が発生する回数が増えます。

続いてNa⁺チャネルが不活性化し、電位依存性K⁺チャネルが開きます。K⁺が細胞外へ流出することで、膜電位は静止膜電位の方向へ戻ります。これを「再分極」といいます。K⁺チャネルは少し遅れて閉じるため、膜電位が一時的に静止膜電位よりも陰性になることがあります。これを「過分極」といいます。
活動電位の直後には、Na⁺チャネルが不活性化しているため、どれほど強い刺激を受けても次の活動電位を起こせない「絶対不応期」があります。その後、Na⁺チャネルの一部は回復しますが、K⁺チャネルの一部がまだ開いているため、通常より強い刺激でなければ活動電位を起こせない「相対不応期」が続きます。

ある場所で生じた活動電位は、隣の軸索膜を刺激して、そこで新しい活動電位を生じさせます。この反応が次々に繰り返され、電気信号が軸索の先端へ伝わります。
軸索がミエリン鞘で覆われている場合、活動電位は主にランビエ絞輪で発生し、次の絞輪へ飛び移るように伝わります。これを跳躍伝導といい、信号を速く、効率よく伝えることができます。

活動電位が神経終末へ到達すると、電位依存性Ca²⁺チャネルが開きます。流入したCa²⁺を合図にシナプス小胞が細胞膜と融合し、神経伝達物質がシナプス間隙へ放出されます。放出された伝達物質は、再取り込み、酵素による分解、拡散などによって取り除かれます。

5.4 神経伝達物質
活動電位が軸索の末端に到達すると、電位依存性Ca²⁺チャネルが開き、Ca²⁺が神経終末の中へ流入します。これを合図として、神経伝達物質を包んだシナプス小胞がシナプス前膜と融合し、神経伝達物質を細胞外へ放出します。この仕組みを「エクソサイトーシス」と呼びます。(上のイラストを見てください)
放出された神経伝達物質は、細胞と細胞の間にあるごく狭い「シナプス間隙」を拡散し、次の細胞の膜にある受容体と結合します。すると、イオンチャネルが開いたり、細胞内の情報伝達系が動いたりして、次の神経細胞の活動が変化します。
神経伝達物質には、グルタミン酸、GABA、ドーパミン、ノルアドレナリン、セロトニン、アセチルコリン、ヒスタミンなどがあります。これらは最初から完成した状態で体内に入ってくるのではなく、多くはアミノ酸などを原料として、酵素の働きによって段階的に作られます。小分子の神経伝達物質は、主に神経終末で合成され、小胞内へ取り込まれます。
なお、ニューロンは主に特定の神経伝達物質を使用します(ドーパミン作動性ニューロン、セロトニン作動性ニューロン・・・などと呼びます)。しかし一つのニューロンが複数の伝達物質を一緒に放出することもあるようです。
神経伝達物質は、大きく分けて3つに分類できます。アミノ酸(グルタミン酸、GABA、グリシンなど)、アミン(ドーパミン、ノルアドレナリン、セロトニン、ヒスタミンなど)、ペプチド(サブスタンスPなど)です。例外にアセチルコリンがあります(例外と言っても非常に重要な伝達物質です)。代表的なものを一つ一つ見ていきましょう。
5.4.1 グルタミン酸
グルタミン酸は、成熟した脳で最も主要な興奮性神経伝達物質です。一般に、次の神経細胞を発火する方向に向かわせます。
合成経路は次のように表せます。
L-グルタミン(C₅H₁₀N₂O₃)
↓ グルタミナーゼ
L-グルタミン酸(C₅H₉NO₄)
↓ グルタミン酸脱炭酸酵素(GAD、ビタミンB₆を利用)
GABA(C₄H₉NO₂)

放出されたグルタミン酸の一部は、周囲のアストロサイトに取り込まれてグルタミンへ変換され、再びニューロンへ渡されます。
5.4.2 GABA
GABAは主要な抑制性神経伝達物質で、次の神経細胞を発火しにくくします。
5.4.3 ドーパミン
ドーパミンとノルアドレナリンは、どちらもチロシンというアミノ酸から作られます。共通してカテコールという構造を持つため、「カテコールアミン」と呼ばれます。
L-チロシン(C₉H₁₁NO₃)
↓ チロシン水酸化酵素
L-DOPA(C₉H₁₁NO₄)
↓ 芳香族L-アミノ酸脱炭酸酵素
ドーパミン(C₈H₁₁NO₂)
↓ ドーパミンβ水酸化酵素
ノルアドレナリン(C₈H₁₁NO₃)
さらに副腎髄質などでは、
ノルアドレナリン
↓ PNMT
アドレナリン(C₉H₁₃NO₃)
へ変換されます。

この経路では、チロシン水酸化酵素による最初の反応が、全体の速さを調節する重要な段階です。ドーパミンはノルアドレナリンの原料であると同時に、それ自体が独立した神経伝達物質です。
脳内では、ドーパミンを作るニューロンの細胞体は主に中脳に、ノルアドレナリンを作るニューロンの細胞体は主に橋の青斑核にあります。そこから伸びる軸索は脳の広い領域へ投射し、運動、注意、覚醒、学習、動機づけなどを調節します。

5.4.4 ノルアドレナリン

5.4.5 セロトニン
セロトニンは、トリプトファンという必須アミノ酸から作られます。
L-トリプトファン(C₁₁H₁₂N₂O₂)
↓ トリプトファン水酸化酵素
5-ヒドロキシトリプトファン/5-HTP(C₁₁H₁₂N₂O₃)
↓ 芳香族L-アミノ酸脱炭酸酵素
セロトニン/5-HT(C₁₀H₁₂N₂O)

脳内のセロトニンニューロンの細胞体は、主に脳幹の縫線核群にあります。そこから脳の広い範囲へ投射し、気分だけでなく、睡眠・覚醒、食欲、痛み、体温調節など多くの機能を調節します。
「セロトニン=幸せを作る物質」と単純化されることがありますが、実際には複数種類の受容体があり、作用は脳の場所や受容体の種類によって異なります。

5.4.6 アセチルコリン
アセチルコリンは、コリンとアセチルCoAから作られます。
コリン(C₅H₁₄NO⁺)+アセチルCoA
↓ コリンアセチルトランスフェラーゼ
アセチルコリン(C₇H₁₆NO₂⁺)
放出されたアセチルコリンは、アセチルコリンエステラーゼによって速やかに分解されます。
アセチルコリン+水
↓ アセチルコリンエステラーゼ
コリン+酢酸
生じたコリンの多くは神経終末に再び取り込まれ、アセチルコリンの合成に再利用されます。

アセチルコリンは、脳内だけでなく、神経筋接合部、自律神経節、副交感神経の節後線維などでも重要な神経伝達物質です。

5.4.7 ヒスタミン
ヒスタミンは、ヒスチジンというアミノ酸から作られます。
L-ヒスチジン(C₆H₉N₃O₂)
↓ ヒスチジン脱炭酸酵素
ヒスタミン(C₅H₉N₃)

脳内のヒスタミンニューロンの細胞体は、脳幹ではなく、主に視床下部の結節乳頭核にあります。そこから脳の広い範囲へ投射し、覚醒状態の維持などに関係します。抗ヒスタミン薬の一部で眠気が生じるのは、脳内のヒスタミンH₁受容体も遮断するためです。

神経伝達を止める仕組み
神経伝達物質は、放出されたまま残り続けるわけではありません。信号を終わらせる方法は、物質によって異なります。
- ドーパミン、ノルアドレナリン、セロトニン:主にトランスポーターによる再取り込み
- アセチルコリン:アセチルコリンエステラーゼによる分解
- グルタミン酸、GABA:ニューロンやグリア細胞への取り込み
- 一部の伝達物質:シナプス周囲への拡散
抗うつ薬などの向精神薬の多くは、神経伝達物質そのものを「増やす薬」というより、再取り込み、分解、受容体への結合などを変化させ、神経伝達の強さや持続時間を調節する薬だと考えると理解しやすくなります。
5.5 受容体
受容体は、細胞膜のところでも触れましたが、リン脂質二重膜に散在しているタンパク質です。ここに神経伝達物質が結合すると、イオンチャンネルが開き、イオンが細胞内に流入することによって、興奮刺激が伝わります。これ以外にも、結合によって、別の酵素が誘導されて、ゆっくり次の神経細胞に変化を起こすプロセスもあります。
5.6 シナプス
シナプスとは、神経細胞と神経細胞のつなぎ目のことです。昔は、神経細胞と神経細胞がダイレクトに繋がっているのか、隙間があるのかが学会でも大論争になっていたそうです。隙間がある方が、勝利を収めました。現在では、常識的なこととなっています。神経細胞の活動電位が、神経線維の端っこ(神経終末)までくると、シナプス小胞という袋に入っていた神経伝達物質が、放出されます。それが次の神経細胞の受容体に結合して、興奮を伝え、その後、受容体を離れて元の神経細胞の末端に取り込まれて再利用されます。
5.7 シナプスに働きかける薬
精神科、心療内科で用いられる薬(向精神薬)は、ほとんどのものが、上記のシナプスに作用することによって効果を発揮します。神経伝達を増強したり、抑制したりすることによって、薬の効果が出るのです。神経終末から神経伝達物質が放出され、その後再び取り込まれて再利用されますが、再び取り込まれることを妨害することにより、伝達物質がその場に残り続け、効果を発揮し続けるとされています。薬物の中には、シナプス後受容体に直接結合して、刺激の伝達を増強したり、抑制したりするものもあります。
5.8 電気・磁気の神経細胞への作用
ECT、rTMS、電極埋め込み、切断など
5.9 遺伝の問題
5.9.1 遺伝子
遺伝子とは、生物の遺伝情報を持つ基本的な単位で、DNA(デオキシリボ核酸)の中に存在します。遺伝子は、細胞の構造や機能、発育に必要な情報をコード化しており、生物がどのように成長し、繁殖し、環境に適応するかを決定づける重要な役割を果たします。細胞の中の核に染色体があります。それは学校の生物の時間に習いましたよね。染色体の中にDNAの長い鎖状の分子が2本セットで折りたたまれています。
5.9.2 DNA
DNAの構造を見ていきましょう。DNAはデオキシリボ核酸といわれますが、デオキシリボースと言う糖が繋がってできています。以下の図を見て下さい。

そしてこのデオキシリボースに一つ塩基と呼ばれるものがつきます。上の図で、赤い数字が打ってありますが、炭素(C)の位置を示すための番号です。1の位置に「塩基」と呼ばれるものがつきます。

そして、その塩基は4種類あり、アデニン、チミン、グアニン、シトシンです。

そして、炭素の番号3の位置と、5の位置で、隣り合うデオキシリボースがリン酸を間に挟んで繋がっていきます。


炭素番号1の位置に4種類の塩基がつきます。この構造が延々と繰り返された長い鎖がDNAなのですが、2本で螺旋状になって存在します。その際に塩基が決まったペアを組む性質が知られています。アデニン(A)にはチミン(T)、シトシン(C)にはグアニン(G)でペアを組みます。以下に模式図を示します。

これがDNAの二重螺旋構造です。

5.9.3 RNA
次にRNAの話をします。RNAはリボ核酸とも言われ、DNAと似た構造をしています。基盤となる糖が、デオキシリボースではなくて、リボースになります。そしてDNAと違って、一本鎖で存在します。

そしてそこにつく塩基ですが、DNAの4種類の塩基のうち、チミン(T)だけがウラシル(U)に入れ替わっています。

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DNAと同じように、リン酸を挟みながら、どんどん結合して鎖状になってゆきます。
5.9.4 遺伝情報の転写
DNAの遺伝情報の発現を見ていきます。DNAの二重螺旋が、一部ほどけます。

そこにRNAポリメラーゼという酵素の働きによって、RNAが作られていきます。一本鎖になったDNAの露出した塩基に対して、対応した塩基が来ます。アデニンにはウラシルをもったリボースが、グアニンにはシトシンをもったリボースがやってきて、つながります。作られたRNAはmRNA(メッセンジャーRNA)と呼ばれています。DNAは、大事な遺伝情報の中枢なので、染色体内(細胞核内)にとどまり、情報の一部をコピーしたmRNAが細胞核から、細胞室内に出ていきます。

5.9.5 遺伝情報の翻訳
mRNAは、細胞質に出ていくと、リボゾームと結合します。RNA上に塩基が並びますが、3つずつセットになっていて、その3つに対応した1つのアミノ酸をtRNA(トランスファーRNA)が運んできます。そしてアミノ酸が繋がっていきます。アミノ酸が繋がったものがタンパク質です。この過程を翻訳と呼びます。


5.9.6 遺伝情報の発現
私は、学生の時、DNAからタンパク質ができていく過程を知って、「これが遺伝の発現だ」と聞いて愕然とした記憶があります。この自然のコードには感動したのですが、「タンパク質が全てなの!?」という思いがありました。勉強ができたり、足が早いけど球技が苦手だったり、容姿が優れていたり・・・色んな遺伝があるけど、タンパク質で決まるの!?
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